交番勤務は実績主義である。
テレビでは、110番を扱ったり、職務質問したりするところしか放映しない。
だけど、実績の根本は、ノルマである。
お巡りさん1人1当直、交通切符1枚以上、泥棒の検挙は月に1件以上。
もし交番に二人勤務でいれば、交番で一当直に切符2枚以上、検挙は月2件以上となる。
(ブロック長と言われる警部補には、ノルマはない。)
勤務は、勤務表に従って勤務する。
例えば、立番、見張り、巡回連絡、警ら、休憩など。
1時間おきに勤務表に押印して、勤務することとなる。
------- 基本勤務
出勤すると、更衣室で制服に着替え、8時30分から「配置・教養」
係長(警部補)が、その日の交番と勤務者を読み上げ、何か一言二言、教養になることを言い、その後、地域課長(警部)がやはり、一言、何か言って朝礼が終わる。
「配置・教養」が終わると、前の勤務員と引継ぎがあり、バイクを引き継いで、交番に向かう。
あとは勤務表どおり、行動する。
ところがである。
勤務表どおり行動すると、ノルマは達成できない。
だから、朝一で近くの交番の警察官と一緒に交通違反の取締りを行って、一人1枚ずつ切符が切れたら勤務表どおりに行動する。
勤務変更は簡単にできる。本署の係長に電話すればよい。
夜なんかは、近くに交番の人と勤務変更して、飲酒運転の取締りを行ったりする。
休憩時間中に休憩できなければ、それも勤務変更。
よく交番に、「パトロール中」と書いてあるのに、横にバイクが置いてあるのは、お巡りさんが二階で寝ているだけ。
事務所のドアを叩いてみると、寝ていたお巡りさんが出てくるよー。
朝、交番の前にお巡りさんが立っているのは、勤務表が「立番」になっているから。
と、いうより、立っていないと本部の地域指導課の人が見回りに来て、怒られるからなのがホンネ。
-------自転車盗
検挙はどうするか?
万引きでも、自転車盗でも、バイク盗でもなんでもいいから、捕まえる。
自分が赴任した警察署は、立地条件が最高だった。
夜、終電が路線の途中で終わってしまうと、タクシーに乗るお金のないサラリーマンは、駅前に駐輪してある自転車の鍵を壊し、えっちらほっちら国道を走ってくる。
交番で自転車が来るのを見ると、バイクで追いかけて行って、自転車を止め、「ダメだよー。持ってきちゃー」って声を掛けると、おっさんは、「ごめんなさい」と一言。これで一件検挙。
盗んだ自転車って、不思議とライトを点灯していない。
なんでかは知らないけど、心理的に点灯しないんだろうね。
そういった自転車に声を掛けると、面白いように泥棒が捕まる。
------バイク盗
自分の場合、自転車盗では満足ができなかった。
では、どうしたか。
朝、交番に就く前に刑事課に寄って、前日に盗まれたバイクのナンバーや、車体番号をメモしておく。
そして午前中に、隠してあるバイクを見つける。
どうせバイクを盗むのは、中学生のワルガキだから、隠す場所も見当が付く。
そして、夕方、学校が終わる頃からジャンバーを羽織り、そのバイクの所でワルガキが来るのを張り込む。
当時は簡単にバイクが盗めた。力づくでハンドルロックを壊し、ライトを外すとエンジンが直結状態になって、キックするとエンジンが掛かっちゃうんだよー。
いちおう逃げられないように、マフラーにセロテープ゜を巻いて、排気ガスが出ないようにしておく。
こうすると、エンジンが掛からない。
現れたワルガキは、必死でセルをキックするから、近付き、「ケイサツだー」と言えば、バイク盗一件検挙。
こうして検挙には困らなかった。
でもこの方法、バイクが盗まれてから2当直位が限度。なぜなら、バイクの鍵がないから給油ができず、そのまま捨てられてしまう。
だからワルガキが現れないと、遺留品扱いにして、被害者に返してあげる。
------超過勤務手当て
月に一度、「招集日」と言うのがあって、交番に就く前に講堂で署長を初め、警部以上の話を聞く会議がある。
その冒頭で、表彰状の授与式があり、一件検挙で一枚の表彰状と金一封(300円)がもらえた。
窃盗の検挙実績が優秀だと、「窃盗検挙実績優秀」なんて賞がもらえたけど、それも300円だったなー。
もちろん、切符をたくさん切れば、「交通違反検挙実績優秀」なんて賞もあったなー。それも300円。
なんかさぁー
こんなことばかりしてたから、刑事課のデカさんとは仲良くなり、刑事にならないかと推薦され、刑事部の道を歩むことになる。
ホントは白バイに乗りたかったんだけど・・・。
実績には点数があり、検挙何点とか、盗まれた自転車を返すと「遺留品返却」何点とか、切符は一枚何点とか、項目があって、月の合計で一番を取ると「総合実績優秀」って賞がもらえたけど、それも300円。
毎月の点数で順位も付けられる。仕事をしないと、超過勤務手当てを減らされたり、昇任もできない。
給料減らされるのが、一番痛いねー。
---------警部補の仕事
係長として本署で110番を受け、交番に指令するのは警部補である。
いくつかの交番を束ねるように、ブロック長と称して、何人かの警部補も交番に就いている。
警部補にはノルマはない。
では、何が仕事かというと、部下の実績を上げ、賞を取らせるのが警部補の実績。
自分は、口で「仕事しろ」というのが嫌いなタイプ。自分で動くのが好き。
だから警部補になった時は、夜、交通の当直さんからミニパトを借りて、交番の勤務員と職務質問に出た。
そういえば、こんな事があった。
いつものように、夜、ミニパトを借りて交番のお巡りさん2人を乗せ、パトロールに出た。
片側2車線の広い道路を走っている時、ユーターンした車を見つけた。
この道路、転回禁止の標識が掛かっていて、立派な交通違反。
さっそく赤灯付け、サイレン鳴らしてこの車を止めた。
運転手はなんと外国人。
パスポートやら免許証を出させると、どこの国だかわからないパスポートを出した。
この外国人、そわそわして落ち着かない。
車の中を見せてと頼んで、車内を見せてもらう。
すると一万円札が何千枚も出てきた。
更に見ると、パケに入った白い粉が無数にダンボール箱に入っている。
ありゃー、これ覚醒剤じゃん!!!!!!!!!!!
覚醒剤の売人だよー、こいつはー!!!!!!!
こいつに説明して、覚せい剤の予備試験をやると、覚せい剤反応。
すぐさま現行犯逮捕する。
本署に連れて行き、専務に引き継ぐと、これからが自分の仕事。
警部補としては、一緒にいたお巡りさんが、言葉巧みに職務質問して、犯人を現行犯逮捕したことにして、賞を取らせないといけない。
本部に上申するのは、地域担当次長(警視)の仕事。
だけど次長には、任せておけない。
自分でパソコン立ち上げ、すぐに本部に送る上申書を作り、朝、次長が出勤したと同時に、二人の功績をたたえながら、書類を渡した。
次長は書類に目を通すと、「うん、いいよ。」の一言。
二人の警察官は翌月の招集日で、本部が出す「一級賞誉」を受賞できた。
こんなことばかりやっていたから
自分の勤務評定は、「A」が付いていた。