ある年の8月15日。
朝から蒸し暑く、どんより雲が覆っている。
出勤して班長と「今日は休日で道が混むから、ゆっくりしましょう」と、仕事の段取り(?)。
提出する書類があったので早いうちに、本隊行って、帰ってきてからゆっくりする作戦。
前の番と引継ぎが終わったら、とっとと本隊へ。
そして渡すもの渡して、すぐ帰路に着く。
と、その時、無線で強盗事件。まいったねー、自分の管内だ。
車を道の脇に寄せ、赤灯を車の屋根に載せる。
「いてーー!」と思って手を見たら、血がダラダラたれてくる。
どうやら赤灯を載せている鉄板の端で指を切ってしまったようだ。
きずを見ると、結構深い。
血がとまらない。
どうしようもないけど、現場行かないと、どうしようもない。
切れた指、くわえながら、発進。
サイレンならして、指くわえながら緊急するのも始めてだね。
班長が助手席で無線の応対してるから、拡声器のマイクとハンドルを握る。
こんな状態で20分。到着。
現場は町内会事務所。ここに管理人のじじいが一人寝泊りしている。
自分の部屋で横になってうとうとしてたら、男が入ってきて、金を出せと言って殴ってきた。
その後記憶がなくなったので、何をとられたかはわからない。
変な事件だけど、聞くこときいて無線で流す。
署によって、概要をまとめ終わったのは午後2時。
さて夕飯のおかずを買って帰りましょう。ということで、スーパーによって、うなぎを買いました。
事務所にもどってから、米といで、近くの薬局へ。
最近はいいものあるね。スプレー式の殺菌パウダー。きずにシュッとすると、傷口をふさいでくれる。
これでとりあえず、指は安心。でもずきずき痛むから、やっぱ深くまで切ってしまったようだ。
事務所に戻ると、班長が「死体がでたらしいよ」。
とりあえず、指令があるまで待機。今日はもうどこにも行きたくないな。というのがホントの気持ち。
お盆で、休日が重なり、道が渋滞してるのはわかりきったこと。
しばらくすると、出動の指令。またまた赤灯載せ、サイレンスイッチオン。
近くのインターから高速に乗るが、乗ってすぐ渋滞。高速の側道をとろとろ走る。
くそ暑いときは、みんな窓閉め、エアコンガンガンで音楽聴いてるから、サイレン鳴らしてマイクで怒鳴っても聞こえないんだよね。
現場まで50キロ余り。最初から最後まで渋滞。うちの車が最後の到着でした。
現場は住宅街に通じる細い山道。被害者は21歳の女の子。
草ムラの中に倒れているのを、犬の散歩のじじいが見つけ、110番。(いわゆる強姦殺人)。
被害者は家族と同居。前の日の朝、バイトに出かけてから帰宅していなかった。
こんなところで、よくこんな事件あるねーと思うくらい、周りは住宅地。
悪いことに雨が降りだす。
深夜をまわったころ、検事が現場と解剖をみたいから来てくれとのこと。
またまた緊急で検事の住む宿舎へかっ飛ぶ。
検事を乗せ、最初は現場。雨のシトシト降る中、説明しながら現場までの細い道を歩いて上る。
とても住宅街に通じる道とは思えないくらい寂しい。
広い通りのバス停から通じている道でもある。
きっと被害者の女の子もバイトの帰り、バスを降り、この道を歩いたことだろう。
現場が終わると、遺体が安置されてるところへ。
待つこと30分。司法医の先生も到着し、解剖が始まる。
とは言っても、最初は鑑識作業。服を一枚ずつ脱がしながら、粘着テープで服に付着した微物を採取していく。
それに写真撮影が加わるので、解剖が始まるまで、1時間はかかる。
それにしても、いたたまれないね。
こんな若い子が、なにがどうしたか知らないが、殺され、はかない命がおわってしまった。
死因は窒息死。締められているとき、一体何を考えていたのだろう。
苦しかっただろうね。成仏してください。
検事さん、余りの眠さに耐え兼ねたか、帰ると言い出した。
検事を自宅に送って、やっと任務解除。
事務所に戻ることになりました。
事務所に戻ると午前4時を過ぎていた。
ここでどっと疲れが出る。
ご飯はとっくに炊き上がっていたので、夕食に買ったうなぎを食べ、布団の上に横になりました。
ところが、ところが。
最近、休日の次の日になると、早朝コンビニに強盗が入る事件が、ぽつりぽつりと続いていた。
嫌な予感がしてたんだよね。前回からだいぶ経っていたから、そろそろとは思っていた。
まさか、よりによってといった感じ。
午前5時過ぎ、コンビニ強盗の110番。
寝たか寝ないかの、死んでる頭をたたき起こし、またまた赤灯、サイレンで現場に向かう。
現場周辺で聞き込むが、いい情報も取れず、打ち切り。
長い長い一日でした。
追伸。強姦殺人の犯人、捕まりました。
被害者の冥福、深くお祈りします。