ある日の当直で分駐所にいると、本隊の中隊長(階級は警部)から電話があり、本隊に来てくれとのこと。



なんか悪い事でもしたのかなあ、と心配しながら本隊へ。

中隊長のところに出頭すると、「今度隊長車の運転をやってくれ」とのこと。

隊長車の運転とは、文字どおり機動捜査隊の隊長の乗る司令車の運転のこと。

別に私が優秀だった訳ではない。単に隊長の家に一番近いというだけの理由。

機動捜査隊の隊長は、階級は警視。署轄でいうと警察署長と同じ。

隊長が出動するのは、殺人事件の発生、変死体の発見、立てこもり以上の事件で現場で事件指揮をとること。
事件が発生すると現場まで緊急運行で、隊長を送って行くのが仕事。

断る理由もなく、二つ返事で、「わかりました。」

隊長運転って年中無休、24時間体制で拘束される過酷な仕事。日勤勤務でも、土日は自宅待機で、買い物にも出られないし、小さい子供もいたけど、遊びにも連れて行かれない。ただただ出動の電話を待つ。

平日の朝は隊長の家まで迎えに行き、本隊に送り届け、帰りは隊長の自宅まで送る。事件が発生すると夜中でも隊長の家に迎えに行き、現場まで送り届ける。

さて車(もちろん覆面の公用車)はどうするかというと、自宅前に駐車場を借り、そこに車を置いていて、すぐに出動できるようにする。駐車場代は毎月支給してくれた。(そんな予算、どこから出たのでしょう。)

そのためワイシャツ、ネクタイ、背広はいつでも着れるように支度しておいて、出動の電話が掛かってくると、夜中でもなんでも、すぐに着替え、自宅の前で車の上に赤灯を載せ、サイレン鳴らして隊長宅に向かい、そこから現場に向かう。

自宅では受令機にスピーカーをつなぎ、警察無線(捜査系)を流していた。
殺人事件とかあると、不思議と無線が静かになる。みんな電話で会話するからだったのかなあ。静かになると電話があり、出動の要請となる。

車はトヨタのマークIIだった。この車、安定していて、どんなにスピードを出してもブレることなく、故障もなく妙に相性がよかった。

現場に向かう間にも、無線に対応したり、車載電話がかかってきたり、マイク持って周囲の車に喚起してよけてもらうから、けっこう運転には気を配った。

現場にさえ着けば、隊長降ろしたあとはやることがなく、ブラブラしていたので、取材のテレビにはよく映ったなー。もちろん主幹課の本部の捜査一課長(警視)、捜査一課長担当代理(警視)の運転手もいたから、世間話をしたりして、うろうろしていたなあ。

隊長は現場で何をするかというと、機動捜査隊の事件担当代理や中隊長から事件の概要や報告を聞き、それを捜査一課長に報告する。

立てこもりがあると、機動隊が出動すると思っているだろうけど、機動隊は出動しない。現場に突入するのは機動捜査隊員である。


隊長が出勤したあと、何をするかと疑問に思う人もいると思うが
隊長が出勤したら、本部に行って書類を届けたり、車にガソリン入れたり、車にワックスかけたり、雑用が待っている。

一番大切だったのは、運転日誌の偽造。
年に一回、本部の監査があるから、それに備えウソの運転日誌を作成する。
適当に走行距離を書いて、庶務係長から隊長の公印を借り、ペタペタ印鑑を押す。そんな一日を午後5時まで続ける。

そして、隊長が帰ってくれれば隊長のうちまで送り、自宅に帰れるが、そんな日はめったにない。



午後5時から、また仕事が始まる。

夜は刑事部の偉い人がどっかの店に集まり、宴会が始まる。捜査一課長を初め、警視以上が集まり宴会が始まる。

その間運転手は、近くの食堂に集まって、世間話でもしながら夕食をする。夕食代は決まって1000円を庶務の係長がくれた。(このお金も税金だよー)

それで終わってくれればいいんだけど、次は二次会が待っている。
どっかのスナックに行って、偉い人は飲みなおす。運転手は車を路上駐車して、車で居眠り。

そんなこんなで、宴会がおひらきになるのは、だいたい午後10時は回っている。

宴会が終わると隊長を自宅に送り、やっと帰宅。午後11時は過ぎている。

お風呂に入り、とにかくすぐ寝る。

朝は5時起き。朝食を食べた後は、車を洗って隊長を迎えにいく。


なんか霊感があるのかなー、早く帰れた日に、無性に、「早く寝ないとー」、と思う日があって、そんな日は夕食も取らずにすぐに寝ることにしていた。すると決まって23時頃になると、本隊の指令から電話が掛かってきて、「殺人だよ〜」と出動になる。だから、虫の知らせというか、霊感を信じていた。

ところで、偉い人達が毎晩宴会やっているカネは、どこから出るのでしょう。


簡単。裏金なんだよー。庶務の係長は裏金を作るために、食事費とかペタペタ帳簿にスタンプ押して、本部に請求する。副隊長は、捜査員の超過勤務の手当や捜査費を調整して裏金を作る。

県費と国費で1か月、100万円は下らないでしょう。

この中から隊長にいくらか渡し、毎晩の飲み代に代わる。
全てが隊長の飲み代に代わる訳ではなく、その中から本部に上納する。

それをまとめるのは、本部の刑事総務課で、毎月刑事部長にウラガネを渡す。


刑事部長の階級は警視監。刑事部のトップ。1年でどっかに異動していってしまう東大卒の上級国家公務員。



まあ、そんな経験もして、県警の裏金の動きを知るいい経験になった。

その時の隊長は、警務部出身のたたき上げで、50歳で所属長になり、県警のナンバーツー(総務部長)にまで上りつめた人である。その人は定年退職したあとは、警友病院の事務局長に天下りしていった。

ちなみに、ナンバーワンは、県警の本部長のことで階級は警視監、もちろん上級国家公務員。1年でどこかにウラガネ持って異動してしまう。

 

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