こんどはホントの出発の日
夜が明けて、翌朝5時半。目が覚めて、まず外を見る。
う〜ん。雲一つない。テレビのスイッチオン。朝天にチャンネル設定。(同じ朝天でも、最近は6チャンネルのお天気おねえさんの方が、気に入っています。)
そして前の日に買っておいたパンを胃に流し込み、荷物をまとめて運航部へ。
誰もいない運航部で、まずはウェザーチェック。
エコーもないし、これなら行ける!と一人、にやけながらフライトプランの用紙を書き始める。
最初のレグが私。コースは桶川から南紀白浜。そして続くOさんが南紀から高知。最後のNさんが高知から大分まで。
第1レグで私がチャートに引いたコースは、まず離陸はRW32と予想し、北に上昇しつつレフトターン。奥多摩方面、富士山の北を通って南下。静岡市、豊橋市と通り、あとは一直線に南紀白浜を目指すもの。最短で計算すると飛行時間2時間20分程。
頭の中であれやこれやとイメトレしていたら、教官とNさんが下りて来た。そしてみんなでパチコンの画面の眺めること数十秒。「行きましょう!」の一言でブリーフィンク゛は終了。それぞれ出発の準備に取り組んだ。
午前7時過ぎ、バニーちゃん登場。ん?今日はバドちゃんじゃなかったの??楽しみにしてたのに〜!!ざーんねーん。
Oさんもタクシーで到着し、皆でエプロンに移動。
それにしても雲はないけど、透明度に欠ける空。水蒸気が多いせいか、はたまた粉塵等の粒子が多いせいか、抜けるような青空が見えないのが悲しいところ。あの夏の青い空はどこにいってしまったのでしょう。(このすっきりしない天気で、あとで苦労するとはこの時点では予想できなかった。)
このあたりから、久々のロングナビ1番バッターの私は、ドキドキ緊張モードに切り替わる。
そのせいか、ヒコーキの前でみんな揃って出発前の写真撮影をしたが、あまり記憶がない。
念入りの飛行前点検の後、全員乗車完了。見送るバニーちゃんに軽く流し目で合図し、タクシーを開始。RW32へ。
去年、北海道フェリーの際は、最初の着陸地点が佐渡だったので、山越えと滑走路の距離を考え燃料を抜いたが、今回は燃料満タン。最大離陸重量を、きっと100キロ近くオーバーしていたと思います。恐ろしや〜。
離陸のボイスを入れ、フラップ10度。フルスロットル。この時午前7時57分。
ゆっくり動きだしたが重いせいか、なかなか加速しない。前輪のコントロールも効きが悪く、乗用車からダンプに乗り換えたような感じ。
ローテーションを遅れ気味にして、加速しながらゆっくり操縦桿を引く。ヒコーキが地面を蹴ったと同時にストールホーンが鳴る。おっとあぶねぇ。墜落するところ。スピードに注意しながら上昇を続ける。
ところで、そのまま行くとこの先には高圧線。いつもなら余裕でクリアするのになかなか上がらない。足を引っ掛けそうな感じがして、思わず自分の足を持ち上げたりするが、それでも上昇しない。迫る高圧線。あとから考えると、それなりに余裕があったのかもしれないけんど、結構スリルを味わいながら高圧線を超えました。
上昇を続けながら、レフトターン。奥多摩方向に頭を向ける。それにしても視程は悪い。ホントならアルプスを越えて行くと最短なんだけんど、1万以上、上げないと超えられないので断念。河口湖、本栖湖、青木が原の樹海の上を飛ぶ。高度は6500。
富士山の裾野を通るのは初めての経験。こう見ると、富士山も簡単に越えられそう。そう思って実際にやってみて、山岳波にやられて落ちたヒコーキは、何機もある。
神秘的な青木が原の樹海。私はおかげさまで霊感は持ち合わせていないが、このなかにまだ何人、いや何十人もの死体が見つけられずに、横たわっているんだろーねー。
西の山の上には雲がきつくなっている。積雲からさらに発達してTCUになり天を突き上げている雲もポツリポツリ。
しかし南西には雲は少なく、静岡を経由せず豊橋方向にカットする。
この辺りまでくると、浜松のTCA。さっそく呼んでみるが応答がない。どうしたんでしょう、と思って頭をかしげていると、教官がチャートを指差し、「土日は休日」とのこと。そうでした、その通り。
豊橋を通過し、あとは南紀白浜までは一直線。海岸線をしばらく行くと山越になる。山では目立った目標もなく、VORも役にたたなくなり、安全のためもう一度ヘディングを計算し直し、ヘディングだけを頼りに飛ぶことにする。
いつの間にか下には雲が多くなり、雲海になってしまった。つまり、真っ白状態。去年のナビもそうだったけど、私が飛ぶと雲にたたられる。
残った距離からETAを計算すると、南紀までまだ20分以上。いやはや肩に力が入り、固まったまま。そしてやっと南紀のVORをゲット。先の方に雲が切れているので、ここから降下開始。
ここで教官から新しいワザを教わった。教本では降下の際、ミクスチャーリッチ、キャブヒート、パワーリデュースだけど、空気がクリーンな状態ならそのままのスピードでも降下可とのこと。
手順としては
1 ミクスチャーフルリッチ。
2 降下姿勢。
これだけ。
スピードと降下率をキープするように降下していく。降下率は500ft/m。あくまでもクリーンな状態ですので、念のため。
そろそろ南紀まで10マイル。南紀と通信設定をする。場周は海側なので、いったんオーバーフィールドし、ダウンウィンドに入り、ファイナルターン。
ファイナルパスに乗った時は、やっと着いたーという感動が込み上げたが、タッチダウンした後は、今度はどーっと疲れが込み上げてきた。
ここまでで飛行時間2時間39分。しばらく放心状態だったためか、このあたりの記憶が吹っ飛んでいる。